「匿名化」「仮名化」「マスキング」は、同じ意味で使われることがあります。しかし、これらは同じではありません。その違いによって、処理後のデータで何ができるか、どの規則が引き続き適用されるかが決まります。それぞれを分かりやすく説明し、顧客の文書にAIの支援を利用したいときにどれが適しているかを紹介します。
マスキング
マスキングとは、文書の一部を削除するか黒く塗りつぶし、読む人に見えなくすることです。対象の箇所はなくなり、その空白と元の情報を結びつけるものは何も残りません。
文書を別の当事者、裁判所、一般に渡す場合には、マスキングが適しています。正しく行えば、元に戻せません。しかし、誤った方法ではそうなりません。PDF内のテキストの上に黒い四角を描いただけでは、下にあるテキストが残ることがあります。提出または開示用のマスキングには、その目的に特化したツールと手順を使い、別の人が結果を確認する必要があります。
AIで作業する場合、単純な墨消しには欠点があります。名前をすべて黒塗りや「[REDACTED]」に置き換えると、AIは誰が誰なのかを判別できません。2者とその間の支払いについての契約書は、空欄が2つある契約書になってしまいます。要約はできることが多いものの、質問する価値を生み出していた関係性が答えから失われます。
仮名化
仮名化では、識別情報をPerson_1やCompany_1のような一貫した代替表記に置き換え、実際の値に戻すための対応表を別の場所に保管します。
欧州データ保護会議(EDPB)は、GDPRに従い、追加情報がなければ個人データを特定の個人に結び付けられないように処理することと定義しています。ただし、その追加情報は別に保管し、技術的・組織的措置によって保護されていなければなりません。会議はガイドラインの中で、追加情報の例として、仮名とそれが置き換える詳細情報を対応させた表を挙げています。
覚えておくべきなのは、仮名化では何が変わらないかです。同じガイドラインによると、追加情報を使って個人に結び付けられるため、仮名化されたデータも依然として個人データです。英国のICOも同じ見解で、追加情報を保有する者にとって、仮名化されたデータは個人データだとしています。仮名化はリスクを低減しますが、データをデータ保護法の適用対象外にするものではありません。
AIを使った作業では、実質的な利点があります。プレースホルダーに一貫性があるため、AIは文書の構造を把握できます。また、対応表をあなたが保管しているので、AIの回答に実名を戻せます。
匿名化
匿名化はさらに踏み込んだ処理です。あなたにも他の誰にも個人を特定できないようにデータを変更し、元に戻すための対応表も残しません。データが本当に匿名かどうかは、名前が削除されているかだけでなく、合理的に利用される可能性のある手段を使っても個人を特定できないかどうかによって決まります。
個々の顧客について書かれた文書では、これは非常に高いハードルです。固有の状況を説明する手紙は、名前をすべて削除しても、物語そのものが識別情報となり、対象者を特定できる場合があります。完全な匿名化を実現するには、通常、個別の案件について助けを求める際には役に立たなくなるほど詳細を削除または一般化する必要があります。
多くのツールや記事は、「名前の置き換え」を意味するのに「匿名化」と表現しています。ツールが名前を元に戻せる対応表を保持するなら、ボタンに何と書かれていても、その処理は仮名化です。
同じ文を3通りに処理
まず、次の文から始めます。「Maria Lopez(1980年5月4日生)は、賃貸借契約に基づきNorthwind Ltdに12,000の債務がある。」
- 墨消し: 「[REDACTED](生年月日:[REDACTED])は、賃貸借契約に基づき[REDACTED]に12,000の債務がある。」空欄が誰に当たるのかを結び付けるものはなく、AIは1つ目と3つ目の空欄が別々の当事者を指すことも判別できません。
- 仮名化: 「Person_1(生年月日:Date_1)は、賃貸借契約に基づきCompany_1に12,000の債務がある。」文の構造は保たれており、あなたが保管する対応表にはPerson_1がMaria Lopezだと記されています。
- 匿名化: 「賃貸借契約に基づき、借主が貸主に金額を支払う義務がある。」個人は特定できず、詳細の大半も失われています。
真ん中の文なら、AIに役立つ質問をしながら、あとで正しい人に対応付けることができます。
AIを使う作業に適した方法
| 目的 | 適した方法 |
|---|---|
| 文書を他の当事者、裁判所、または一般に送る | 専用のツールと手順を用いた墨消し |
| 特定の顧客案件についてAIの支援を受け、実在の人物に当てはめて回答を読む | 対応表を手元に保管した仮名化 |
| 誰も特定できないようにデータを公開または共有する | 慎重な評価が必要で、多くの場合、詳細が失われる匿名化 |
専門業務でAIを使う場合、仮名化が実務的な選択肢となることがほとんどです。一貫したプレースホルダーによってAIは文書を読み取ることができ、対応表を使えば回答を元に戻せます。また、自分の義務を意識したまま作業できます。仮名化データも依然として個人データなので、安全なコピーも機微情報として扱い、対応表をチャットに入れず、安全なコピーを第三者サービスに渡す際に職業上の規則が何を求めているか確認してください。
どの方法も保証しないこと
どの方法でも、識別情報が何も残らないと保証することはできません。自動検出では、あだ名、誤記された姓、組み合わせて初めて個人を特定できる情報などを見落とします。何を使う場合でも、結果を人が確認する必要があります。考えるべきなのは「完全に安全か」ではなく、「作業に必要なものだけが自分のコンピューターの外に出るように減らし、それを確認したか」です。
GagarinSoftのWindowsアプリであるClientSafeは、顧客文書の仮名化済み安全コピーをPC上で作成し、対応表をPC上に保管して、AIの回答に実名を戻します。他の当事者や裁判所に送る文書の墨消しを行うツールではありません。 ClientSafeについて詳しく読む.
一般的な情報であり、法的助言ではありません。自分に適用される規則を確認してください。