入力補完ツールは、どこかで言語モデルを動かさなければなりません。その「どこか」こそが問題のすべてです。サーバー上で動かすなら、打った文字はまずそこまで旅をします。自分の PC 上で動かすなら、文字は外に出ません。画面に現れる提案はどちらでも同じに見えます ―― 違いは、計算が実際にどこで起きたのかを問うまで目に見えないのです。

これは抽象的な区別ではありません。事業者が技術的にあなたのテキストで何ができるのか、そのサーバーが侵害されたときに何が露出するのか、そして Wi-Fi を切った機内で入力補完が使えるのかが、ここで決まります。内部で実際に何が違うのかを見ていきましょう。

クラウド型の入力補完の仕組み

クラウド型のライティング支援は通常、軽量なクライアント(ブラウザー拡張機能や小さな常駐プロセス)と、遠隔のサーバーで動く大きなモデルの組み合わせです。流れはこうなります。

  1. テキスト欄に数語を入力します。
  2. クライアントが周辺のテキストを取得し、ネットワーク越しに事業者の API へ送信します。
  3. 事業者の設備上で大きなモデルが補完を生成します。
  4. 提案が返され、入力欄にゴーストテキストとして描画されます。

この往復は入力の手が止まるたびに発生します。つまり、書きかけのメール、チャットのメッセージ、社内メモなど、いま書いている内容が絶え間なく第三者のサーバーを通過するということです。この通信をモデル改善や不正利用検知、デバッグのために記録する事業者もいれば、しない事業者もいます。利用者の立場から外側だけを見て、どちらなのかを確かめる術は基本的にありません。しかも条件は、プライバシーポリシーの改定ひとつで変わり得ます。

ローカル LLM の仕組み

オンデバイスのツールは、この構造を反転させます。クライアントだけでなく、モデルそのものが自分の PC の中にあります。

モデルは一度だけダウンロード

セットアップ時に、小型の量子化モデルのファイルをディスクへダウンロードします。それ以降、動作のためにネットワークへつなぐ必要はありません。

推論は自分の CPU / GPU で実行

入力の手が止まると、モデルは推論エンジンを通じてローカルで動き、近くのテキストをメモリーから直接読み取ります。テキストがプロセスの外に出ることはありません。

ネットワークの往復なし

テキストを送る先のサーバーが存在しないため、傍受・記録・保管され得るリクエスト自体がありません。提案は同じローカルのプロセス内で計算され、そのまま破棄されます。

Typeahead for Windows は、この方式で作られています。ローカルモデル(llama.cpp を通じて動く Qwen 3)を、ご自身の PC 上で直接動かします。必要なネットワーク通信はモデルファイルのダウンロードとアプリの更新確認だけで、提案の生成に接続は一切不要です。入力したテキストがどこかへ送信されることはありません。

「テレメトリーなし」が実際に意味すること

「プライバシーに配慮」という言葉は、中身がまるで違う数多くの製品に付けられています。だからこそ、真にローカルな構造が契約上ではなく技術的に何を排除するのかを、具体的に確かめる価値があります。

決め手になる確かめ方: インターネットから切断して、そのまま入力を続けてみてください。提案が出続けるなら、テキストは PC の外に出ていません。届く先のサーバーがそもそも存在しないからです。提案が止まるなら、そのツールはネットワーク通信に依存しており、打った文字はその通信の中身だったということです。

サーバーが介在しなければ、設定を誤り得るテキスト記録の仕組みもなく、メッセージ本文をうっかり含んでしまう分析ダッシュボードもなく、のちの情報漏えいや買収、データ利用方針の変更に巻き込まれ得る利用者テキストのデータセットも存在しません。クラウドへの経路がないことは、方針上の約束ではなく構造そのものの性質です。

トレードオフ:モデルの大きさと能力

もちろん代償はあります。ノート PC の CPU 上で、400 MB〜2.5 GB のディスク容量に収まって動くモデルは、クラウドサービスがデータセンターの GPU で動かす巨大なモデルより小さいものです。何もないところから長文を書き起こすような自由度の高い作業では、巨大なクラウドモデルのほうが発想の幅で依然優位です。

しかし次の語句を補う入力補完は、自由な文章生成よりずっと狭い作業です。ゼロから新しい内容を書き起こすのではなく、すでに書き始めた一文のもっともらしい短い続きを予測するだけだからです。これは小さくよく調整されたローカルモデルが得意とする作業であり、汎用チャットに比べて大きさのトレードオフがはるかに小さくて済む理由でもあります。

項目 ローカル LLM(Typeahead) クラウド入力補完
推論が動く場所 自分のデバイス 事業者のサーバー
ネットワークへ送られるテキスト なし 提案のたびに送信
オフラインで動作 はい いいえ
アカウントの要否 いいえ 多くの場合必要
事業者が侵害された場合の露出 なし ―― サーバー側にテキストが残らない 保存方針しだい

この違いがいちばん効く場面

ローカルとクラウドの差は、機微な内容を打つ人にとって机上の話ではありません。口座情報を扱うサポート担当、記録を書く医療や法務のスタッフ、秘密保持契約のもとで書くすべての人が当てはまります。単に電車の中や地下のオフィスなど、通信が不安定な場所で書く場合にも関わってきます ―― クラウド型のツールは黙り込みますが、ローカルのツールは気づきもしません。

Typeahead はこれを設定項目ではなく既定の動作として扱います。パスワード入力欄は常に無視され、パスワード管理ソフトや金融系アプリは最初から保護対象で、その保護を解除するスイッチはありません。そもそも入力したテキストがデバイスの外に出ていない、という前提の上での話です。

よくある質問

Typeahead が入力したテキストをどこかへ送ることはありますか?
ありません。提案は PC 上で動くローカルモデルが生成します。Typeahead が行うネットワーク通信は、モデルファイルのダウンロードとアプリの更新確認だけで、いずれも入力内容とは無関係です。
本当にローカルで動いているのか、自分で確かめられますか?
いちばん簡単な確認方法は、セットアップ後にインターネットから切断して、そのまま使い続けてみることです。接続がない状態でも提案が出続けるなら、テキストを送れるサーバーは存在しません。
小さなローカルモデルは大きなクラウドモデルと同じくらい優秀ですか?
自由度の高い文章作成では、一般に大きなクラウドモデルのほうが幅広く対応できます。一方、すでに打ち始めた一文の次の数語を予測する用途では、作業そのものが狭く予測しやすいため、小型のローカルモデルでも十分な性能を発揮します。
Typeahead にアカウント登録やサインインは必要ですか?
不要です。アカウントもサインインもなく、サーバー側のプロフィールも一切ありません。アプリはローカルのファイルとローカルのモデルだけで動作します。
Typeahead がインターネットからダウンロードするものはありますか?
セットアップ時のモデルファイルそのものと、定期的なアプリの更新確認だけです。いずれも入力内容とは関係ありません。

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