Windows ユーザーに「あなたの PC に入力補完はありますか」と尋ねれば、たいていは「ある」と答えます。Word は提案に下線を引き、ブラウザーは保存した住所を埋め、タスクバーの検索は探しものを推測してくれるからです。ところが「どのアプリでも、文まるごとで効きますか」と聞き直すと、答えはすぐに変わります。Windows の入力補完は、システムではなく継ぎはぎなのです。

この記事では、すでに手元にある入力補完、それぞれがどこで止まるのか、そしてシステム全体で動く Typeahead のようなツールがその隙間のどこに収まるのかを見ていきます。

Word のオートコンプリートとエディター機能の提案

Microsoft Word は 1990 年代から何らかの入力補完を備えてきました。最初は定型句(AutoText)として、のちにオートコレクトとエディター作業ウィンドウに統合されていきます。日付の書き出しやよくあるあいさつ、同じ文書内で以前使ったフレーズを打ち始めると、Word が灰色の提案で続きを差し出し、Enter キーで確定できることがあります。

これは実際に便利で、Windows において行内の「ゴーストテキスト」補完にいちばん近い存在です。ただし対象は完全に Word の中だけ。Outlook や Slack、ブラウザーのタブに切り替えれば、この機能は付いてきません。しかも、文脈から新しい文章を予測するのではなく、内蔵された少数のフレーズと文書内の履歴に頼っています。

Outlook の返信候補と入力補完

Outlook が補完するのは、性質のまったく違う 2 つです。1 つは宛先の名前(「jo」と打てば、メールしたことのある John さんが一覧に出ます)。もう 1 つは、新しいビルドに入っている「了解です」「ありがとうございます、確認します」といった短い返信候補です。どちらもカバーする範囲では便利ですが、いま書いている文の続きを予測するものではなく、Outlook の外には存在しません。

ブラウザーのフォーム自動入力

Chrome、Edge、Firefox はいずれも住所、保存済みのパスワード、以前入力したフォームの値を自動で埋めます。多くの人が毎日いちばん接している入力補完であり、その 1 つの仕事 ―― 以前その入力欄に打った文字列をそのまま繰り返すこと ―― については非常に優秀です。しかし自由文には何もしてくれません。Gmail の下書きやサポートのチケットで文をどう締めくくるべきか、ブラウザーは何の見解も持っていないのです。

Word のオートコンプリート

ゴーストテキストの提案は Word 文書の中だけ。ほかのアプリには付いてきません。

Outlook の入力補完 & 返信候補

宛先の名前と短い定型返信。Outlook 限定で、文まるごとの予測ではありません。

ブラウザーのフォーム自動入力

入力欄に以前打った値をそのまま繰り返します。新しい文章の助けにはなりません。

スマートフォン式のキーボード予測

1 語ずつ提示し、タップで確定。おなじみの形ですが、Windows に同等のものは組み込まれていません。

スマートフォン式のキーボード予測 ―― Windows が見送った理由

いまどきのスマートフォンのキーボードは、必ず次の 1 語を予測してタップで入力させてくれます。あまりに当たり前になったせいで、それがデスクトップ共通の機能ではないことを忘れがちです。Windows のタッチキーボードにはタブレット向けの同種の機能がありますが、ノート PC やデスクトップでほぼ全員が実際に使っている物理キーボードには何もありません。iOS や Android がキーボード層でやっているように、アプリをまたいで入力を見守り、次の語やフレーズを差し出す OS レベルの仕組みが存在しないのです。

この隙間が生まれた理由: スマートフォンのキーボードは入力経路をまるごと握っています。すべてのアプリが同じキーボードを通るからです。一方 Windows のアプリは、それぞれが自前のテキストボックスを描画し、入力も個別に処理します。だから、すべてのアプリ開発者の協力なしに予測機能を差し込める場所が、どこにもないのです。

システム全体で動くツールの居場所

ここまでに共通しているのは「範囲」の問題です。どの入力補完も 1 つのアプリに後付けされていて、その境界で止まります。 Typeahead は逆側からこの問題に取り組みます。すべてのアプリに予測機能の追加を求めるのではなく、システムトレイ常駐のユーティリティとして動き、どこで入力していてもカーソルを追いかけて文の続きを提案するのです。対象は WhatsApp、Telegram、Slack、Chrome、Edge、Firefox、Outlook、Thunderbird、Word、メモ帳、Notepad++、そして VS Code のチャット欄とテキスト欄です(コードバッファーは既定でオフ)。

提案の出どころはローカル LLM(llama.cpp 上の Qwen 3)か、カスタムのオートコレクト規則と辞書です。だからモデルをダウンロードする前から動作します。確定は Tab キー(既定値で、変更可能)。入力した内容がどこかへ送られることはなく、アカウントもテキストのテレメトリーもありません。パスワード管理ソフトと金融系アプリは既定で対象外です。

よくある質問

Windows にシステム全体で使える入力補完は標準搭載されていますか?
いいえ。Windows 11 にあるのはアプリごとの機能 ―― Word のオートコンプリート、Outlook の宛先と返信の候補、ブラウザーのフォーム自動入力 ―― だけで、スマートフォンのキーボードのようにアプリを問わず文章を予測する OS レベルの層はありません。
Word の入力補完は Typeahead と同じ技術ですか?
いいえ。Word の提案は内蔵された小さなフレーズ一覧と文書内の履歴から来ており、対象も Word 自身に限られます。Typeahead はローカルの言語モデルを動かし、1 つのアプリではなくほぼすべての Windows アプリで文の続きを予測します。
ブラウザーの自動入力が入力欄の外で役に立たないのはなぜですか?
自動入力は、以前その欄に打った文字列 ―― 名前、住所、保存済みのパスワード ―― をそのまま繰り返すだけです。言語のモデルを持たないため、まだ打ったことのない新しい文章は予測できません。
Typeahead が文章を提案するのにインターネット接続は必要ですか?
不要です。モデルを一度ダウンロードすれば、ローカル LLM(llama.cpp 上の Qwen 3)が完全にオフラインで動作します。カスタム定型文と辞書ベースの入力補完は、モデルをダウンロードする前から使えます。
すでに独自の提案機能を持つ Word や Outlook が重くなりませんか?
Typeahead はシステムトレイで独立して動作し、アプリごとに有効・無効を切り替えられます。十分に良い提案が出ているアプリではオフにし、それ以外のすべてでオンにしておく、といった使い方ができます。

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